2016年12月13日

陰陽学説の基礎C可分

陰陽の可分とは陰陽をそれぞれさらに細かく分けることができることをいいます。例えば光と影を光(陽)と影(陰)とすると、光はさらに太陽光(陽)と月光(陰)に分けることができ、さらに太陽光は晴天(陽)と曇天(陰)、月光は満月(陽)と新月(陰)に分けることができます。このように陰陽はどこまでも分けることができ、反対に視点を引いてみると大きくしていくこともできます。
陰陽可分

易では万物の始まりをあらわす太極から陰陽が分かれ(両儀)、さらに陽から老陽(陽)と少陰(陰)、陰から少陽(陽)と老陰(陰)に分かれ(四象)、さらに四象からそれぞれ陰陽に分かれて八卦ができます。
易の話はとても難しいのでここまでにして、では陰陽の可分をどのようにして治療に活かしていくかを考えていきましょう。

まず陰陽の可分とは視野を広げてみたり狭めてみたりして、目的に応じてピントを合わせることだと考えています。例えば新規で腰痛の患者さんが来院された場合、痛みが強く一人では歩けない状態(実)なのか、立って歩くのには問題ない状態(虚)なのかを観察します。そして話を聞く中で発症からの日数が短い急性期(実)なのか、持続的な痛みが続く慢性期(虚)なのか、さらに局所に触れてみて熱をもっている状態(実)なのか、熱がない、もしくは冷えている状態(虚)なのかというようにどんどん細かくみていきます。
(※補足:実とは過剰や停滞、強いイメージで陽、虚とは不足や弱いイメージで陰となります。)

このように全体⇒局所、場合によっては局所⇒全体というように、焦点を変化させて病態の本質を探っていくことを陰陽の可分が言いたいことだと思っています。

以上で陰陽の基本的概念の説明は終わります。ここでは鍼灸治療に当てはめて考えてきましたが、東洋医学の考え方は元々は東洋思想、東洋哲学を人体に当てはめて理論化したものです。ですから陰陽学説は治療だけでではなく人生をどのように過ごすか、対人関係やあらゆる仕事をする上でもヒントをくれる考え方なので、勉強してみると面白いと思います。

現代の人たちには陰陽という言葉はあまりなじみがなく、人によってはあやしいものだとして敬遠されがちですが、日本の伝統行事のほとんどは陰陽学説や五行学説と関連があります。このことについては過去の記事(節分土用の丑)にありますので、興味があれば覗いてみてください。
posted by 続木はり院 at 21:38| 東洋医学

2016年12月06日

陰陽学説の基礎B消長と転化

陰陽の消長とは陰と陽の量が増えたり減ったりすること、転化は陰⇒陽、陽⇒陰へと変化することです。これだけだとわかりづらいので1日の陰陽の変化を例にして考えてみます。

まず昼間のように太陽が昇っている時間は陽の量が多く、夜間の暗い時間は陰の量が多くなっています。朝に日が昇るとどんどん陽の量は増えていき、昼の12時に陽は頂点を迎え、そこから夜に向かって陽の量は減り、反対に陰の量が増えていきます。そして深夜の24時に陰は頂点を迎え、朝になるに従って陰の量は減り、再び陽の量は増えていきます。
陰陽の消長と転化.gif

このように昼の12時と夜の24時に陰と陽が切り替わるのが転化、そこを頂点として陰と陽の量が増減するのが消長です。これは1年を通した四季の変化も同様で、夏は陽が多く、冬は陰が多い、春と秋はその中間といった感じです。

ではこの陰陽の消長と転化を臨床ではどのように考えるのか?まずは人体に当てはめて考えてみます。東洋医学は自然界と人間は同じと考えるので、人間の中でも昼と夜で陰陽が増減します。例えば自律神経でいうと交感神経が陽で副交感神経が陰に相当します。

人が昼間仕事や勉強、遊びなどで活発に活動する時間には交感神経(陽)が優位になり、夜寝る時間になると副交感神経(陰)が優位になります。自律神経が乱れると出てくる症状に不眠症がありますが、これは本来副交感神経が優位になってリラックスする時間に交感神経が優位になってしまい、興奮して眠れなくなった状態です。
つまり陰が多くなる時間なのに陽の量が多くなってしまっているので、はりで治療する場合は陰虚(陰の不足)として捉え、陰の量を増やして陽を抑制するように施術していきます。

他には体が冷えている患者さんには温めることがありますが、あまりに強く温めすぎると発汗してかえって冷えてしまう場合があります。よくあるのが腰痛の患者さんで温めると楽になるからと風呂に入ったまではいいけど湯冷めしてしまい、余計に腰を冷やして痛みが増してしまったということがあります。
それとは逆に氷で強く冷やすと低温やけどで発熱してしまう場合なども陰陽の転化で「陰が極まれば陽に、陽が極まれば陰となる」という性質のため注意が必要です。

「消長と転化」は治療はもちろんのこと、生活する上で健康を保つためにも大切な概念です。よくある陰陽の図もこの「消長と転化」を表現しています。
太極図.gif
この概念が理解できれば陰陽の考え方がより身近になると思います。

次回は陰陽の基礎C可分です。
posted by 続木はり院 at 21:20| 東洋医学

2016年11月30日

陰陽学説の基礎A対立と制約

陰陽は〔上と下〕、〔動と静〕というように対立しているということは前回お話しました。今回は陰陽はお互いに制約しているという内容です。

鍼灸学校の教科書の説明では、暑い日には静かに過ごして体温が上がらないようにし、寒い日には活動をして体温を上げるようにする、結果として陰陽のバランスをとることができるとあります。
教科書の内容だと治療法というよりも養生法といった感じです。患者さんに生活の中で気をつけることを陰陽をからめてお話すると面白いと思ってくれるかもしれませんね。

では陰陽の制約をどのようにして臨床に活かすかを考えてみます。まず制約という言葉ですが、抑制すると言い換えた方がわかりやすいかもしれません。熱のあるところを冷やすことで抑制する、冷えたところを温めることで抑制するといった感じです。

前回の互根(依存)では、一見熱の症状にみえてもどこかに冷えている部分があるというように、観察の仕方、捉え方に応用しましたが、今回の制約は治療手段として用いることができます。前回の例で示したのぼせの治療方法もこの制約の原則に当てはまります。

他にも虚したところは実にする(補法)、実したところは虚さしめる(瀉法)も制約ですね。ちなみに虚したところとは気や血が不足したところで弱っている部分です。そこに気や血を集めるようにして充足させる(実しめる)ようにはりをするのが補法(ほほう)です。実したところとは気や血の流れが悪く停滞していたり、邪気が溜まっているところで、それを散らしたり流れをよくするようにはりをするのを瀉法(しゃほう)といいます。

考え方はシンプルですので陰陽の制約は理解しやすいと思いますが、思い通りに治療効果を出すにははりの技術が求められるので実技の練習が重要となります。

次回は陰陽の基礎B消長と転化です。
posted by 続木はり院 at 21:46| 東洋医学

2016年11月26日

陰陽学説の基礎@対立と互根

前回に引き続き陰陽学説を臨床にいかにつなげるかを考えていきたいと思います。まず現在鍼灸の学校で使われている教科書には基本内容として次の4つの特徴で説明しています。

@対立と互根(依存)
A対立と制約
B消長と転化
C可分

これを順番にみていきますので今回は@対立と互根(依存)について説明します。

「対立」とは〔上と下〕、〔左と右〕、〔天と地〕などのように文字どおり対立した関係性を言います。
「互根(依存)」とは”上”というものは”下”があるために存在するというように、1つの事象は単体では存在意義がなく、対立するものが存在してはじめて意義が生まれるというものです。

ではこれを人体に当てはめてみましょう。ここでは「寒(陰)」と「熱(陽)」を例にして考えてみます。
更年期の女性によくある症状にほてりとのぼせがあります。患者さんは胸や頭が熱く汗をよくかいてつらいと訴えてきます。ここで何も考えず単純に熱の症状だと思って治療すると失敗してしまいます。

「対立と互根」を頭において考えると「熱」があれば必ず「寒」があることになります。観察してみるとこのような症状をもつ方は足元が冷えているケースが多いです。大本は冷えていて体に残っていた熱が上半身や表面に昇り(熱の上昇する性質による)、見た目には熱の症状が出ているわけです。だからこのケースだと温める治療をして昇った熱を下に降ろして循環するようにしてあげるわけですね。

私の経験上、鍼灸院に来院される方、特に女性ではこの寒熱が分離しているケースがよく見られるので「対立と互根」について理解しておくと役に立つと思います。

次回は陰陽の基礎A対立と制約です。
posted by 続木はり院 at 22:04| 東洋医学

2016年11月21日

陰陽学説を臨床に活かす

東洋医学のベースとなる考え方に陰陽学説があります。陰陽学説とは自然界の中で対立した2つの事象を見出し、その関係性を理論化したものです。鍼灸の学校へ入学すると、1年生から陰陽学説を勉強しますが、現代医学からは一見するとかけ離れた考え方なので、この段階で勉強につまずいてしまう学生が多くみえます。特に理学療法士や看護師などの医療系資格を持って入学した人たちはなおさらとまどうでしょう。

しかし陰陽学説をしっかりと理解して、その考え方をもとにして治療を行わないと東洋医学を実践しているとは言えません。たとえはりやお灸を用いたとしても、現代の解剖学に基づいて神経や筋肉を刺激した場合は、それは東洋医学ではなく現代医学的な物理療法の一部でしかないわけです。

もちろん治療方法はさまざまでどれがよくてどれが悪いということをここで言いたいわけではありません。私自身鍼灸のメカニズムが科学的に研究され、解明されていくことは必要なことだと思っていますし、積極的に勉強するようにしています。

ただ鍼灸師は東洋医学を専門とする非常に珍しい職業です。鍼灸院に来院される患者さんの中にも東洋医学に興味があり、それを期待して来院される方も多くみえます。鍼灸師を名乗る限り東洋医学についての専門的知識を持っていることは東洋医学のプロフェッショナルとしての最低条件だと私は思っています。
反対に東洋医学についてまったく勉強する気もなく、理解しようともしないでただ否定しかしない鍼灸師の先生に出会うと同業者として悲しい気持ちになります。

話が長くなりましたがこのブログを読まれている方には鍼灸の学生さんもいるようなので、東洋医学に入っていきやすいようなお話をしたいと思います。

そこでタイトルにもある「陰陽学説を臨床に活かす」ですが、鍼灸の学校へ入学される方は当然将来鍼灸師を職業として生活していくことを目標にしているわけですから、学校の授業に求めるものは治せる技術と知識だと思います。にも関わらず気合を入れて学校へ入ったらいきなり出てくる陰陽学説や五行学説といった摩訶不思議な世界に面食らってしまうわけです。
「こんなことが臨床で役に立つの?」と思っても不思議ではありません。教科書には理論しか書かれておらず、実践方法が書かれていないからです。

次回から陰陽学説についての説明とその臨床への活かし方を簡単にですがまとめていきたいと思っています。
posted by 続木はり院 at 21:33| 東洋医学