2018年09月30日

経絡の新解釈

数日前にNHKで鍼灸をはじめとする東洋医学の特集がありました。これまでもテレビ番組で東洋医学が取り上げられることはありましたが、漢方薬が中心ではり治療となるとほんの数分程度という場合がほとんどでした。
ところが今回は1時間30分まるごと鍼灸治療、しかもゴールデンタイムでNHKです。ここまで鍼灸がスポットライトを浴びたのは初めてではないでしょうか?

番組の中でもはり治療の効果が科学的に説明されており、謎とされてきた東洋医学の仕組みが解明されてきています。
しかしツボとツボを結んでいる経絡については番組内でもまだわからないことが多いと言っていました。

その謎の多い経絡、私たち鍼灸師にとって治療の根幹となるものですが、一人のイギリス人医師により新しい解釈が発表されました。

閃めく経絡

「閃めく経絡」の著者:ダニエル・キーオン氏は救急診療専門医であると同時に中国に留学してはり治療を学んだという経歴の持ち主です。そのため西洋医学、東洋医学ともに精通していることから鍼灸を現代科学の視点で眺めることを可能にしています。
そしてその著者が考える経絡とは全身をつないでいる結合組織の1つであるファッシアFasciaであると主張しています。

ファッシアとは「筋膜」と訳されることが多いですが、実際には筋肉だけでなく各臓器や背骨、神経などをつなぎあわせています。長くなるので詳細は省きますが、このファッシアがはり刺激による情報を伝える通り道になっているとしています。

個人的に面白いと思ったのが重要とされるツボが手や足、肘や膝に集中していますが、それらの部位が発生学における形成中心(身体の発生に重要)と共通しているということです。何もないところから手や足が生えてくるわけですからものすごいエネルギーを秘めているはずです。だからこそ高い効果を発揮するツボとなりえることは納得がいきます。

鍼灸は海外でも注目され研究もすすんでいます。東洋医学はもはや日本や中国などのアジア圏だけのものではなく世界のスタンダードとなりつつあります。
鍼灸が世界に広がることを嬉しいと思うと同時にうかうかしていると西洋諸国に後れを取ってしまうので、そうならないように気を引き締めないといけないなと感じております。
タグ:鍼灸
posted by 続木はり院 at 20:06| 鍼灸

2016年01月18日

鍼灸の歴史を学ぶ

たまたま本屋で鍼灸の歴史について書かれた本を見つけたので購入してみました。一応学校の授業でも鍼灸の成り立ちについては勉強しますが、国家試験で出題されることはないのであまり重要視されていません。
しかし鍼灸というものは2000年以上ともいわれる長い時間の中での経験の積み重ねにより出来上がったものですから、その誕生からいかにして発展してきたかを勉強することは意義のあることだと思います。

針灸の歴史

例えば現在では気が流れる経脈は12本ですが、初期の頃は11本しかなく、手の陽脈の名称も「肩脈」「耳脈」「歯脈」というように臓腑ではなく身体上部の部位名がつけられています。(現代では順番に「小腸経」「三焦経」「大腸経」となっています。)

今でも五十肩の治療に小腸経、耳鳴りや難聴などの耳の疾患に三焦経、歯の痛みに大腸経のツボを使ったりするので、はるか昔からそれぞれの部位と手のツボとの間に関連性が見出されていたのでしょう。それが時間とともに臓腑との間にも関連性が見出され、現在のように経脈に臓腑の名称がつけられたのだと考えられます。
また陰陽五行説の出現により陰経と陽経が関連づけられ、それに合わせて1本増えて12本の経脈になっていきます。

このように時代とともにそのベースとなる理論、哲学などの違いがあるのでその変遷を知ることで古典を勉強する際の手がかりとなります。
もちろん歴史を勉強したからといってそれが治療技術に直結するわけではありませんが、知識として身に着けておくことはプロの鍼灸師として必要なことだと考えています。
タグ:鍼灸
posted by 続木はり院 at 21:32| 鍼灸

2015年09月25日

小児はりと大人のはり

鍼灸院の看板をみると小児はりという文字をみかけることがあると思います。一応はりと名付けられていますが子供に対して行うはりは大人のはりとは異なり、皮膚をつらぬくような構造はしておりません。道具にはいくつか種類がありますが、へらのような形であったり先端が丸いもの、ローラー型のものなどがあり、皮膚をさすったりトントンと叩いたりして刺激します。

小児はり

鍼灸師の間では子供はまだ経絡が発達していないためツボを点として刺激するよりも皮膚全体を面として刺激したほうがよいと説明されています。しかしこれでは一般の方への説明としては不十分なので私なりの考えを書きたいとおもいます。(関連記事:鍼灸と皮膚の関係

子供は成長段階にあり、新陳代謝も活発です。そのため刺激に対する身体の反応も敏感で回復も早い傾向にあります。ですから皮膚をさするだけでも十分な刺激となり、治療時間も短くなります。
反対に大人はすでに身体も発達しているため子供に比べて代謝は低くなっています。そのため身体に反応を起こさせるためにはある程度の刺激が必要となります。

ただ個人差もあって大人でも刺激に対して敏感な方では皮膚に接触する程度、もしくは非常に浅いはりでも十分に効果が出ることがあります。また小学生高学年になると成長の早い子では大人と同じはりを使用することもあります。逆に高校生くらいでも小児はりで十分な場合もあります。

適応症状はかんの虫、夜尿症、小児喘息、食欲不振や虚弱体質、アレルギー性皮膚炎など多岐にわたります。治療は専用の道具で皮膚をさするだけなので当然痛くなく心地よい刺激なのでご安心ください。
posted by 続木はり院 at 22:08| 鍼灸

2015年09月11日

鍼灸と皮膚の関係

鍼灸治療ではただはりを刺すだけではなく、皮膚を刺激して身体に反応を起こさせる方法があります。また手で直接皮膚に触れて身体の変化を感知します。東洋医学では特に皮膚を大事にしてきました。そして最近の研究で、これまで外部から身を守るバリア機構としてだけ考えられてきた皮膚に高度な機能がある可能性が発見されています。

皮膚は脳と同じ外胚葉から発生します。そして皮膚と脳の間にはいくつかの共通点が見つかっています。例えば脳では複雑な情報処理を行うために神経伝達物質が情報を伝えています。この情報を受け取るための受容体が皮膚でも見つかったそうです。
それは皮膚にも高度な情報処理システムが存在する可能性を示します。そのため皮膚は「第3の脳」と言われています。(ちなみに「第2の脳」は腸と言われています)

皮膚が脳を介さず単独に情報処理を行うことができるとすれば、はりで皮膚に刺激を与えることで皮膚において複雑な反応が生じることが考えられます。

これまでもはりの刺激が神経を介して脳や内臓に伝わり、そこからホルモンや自律神経に影響を与えて、それが全身へ伝わり変化が起こるというように、現代科学の視点から鍼灸のメカニズムが研究されてきました。それでもいまだに経絡や気、ツボなどその実態が明確にされていないために、東洋医学は効果が認められながらも何やらあやしげなものとして見られる傾向があります。
しかし皮膚にはまだ未知の領域があるということで、さらに研究が進めば鍼灸の作用機序がより明確になる可能性があります。

そうなれば経絡やツボがどういうものなのか科学的に捉えることができるかもしれません。これまで東洋医学はあやしいからと敬遠してきた方も、科学的に説明されるようになれば鍼灸治療を受けてみようかなという気になるかもしれませんね。
タグ:鍼灸
posted by 続木はり院 at 22:04| 鍼灸

2015年06月12日

鍼灸の上達法

前回鍼灸の技術について書きましたが、鍼灸の学生から技術をみがくにはどうすればいいのか相談されることが多いので、鍼灸学生、または卒業したての新米鍼灸師を対象に少しでも効率よく鍼灸の技術を上達する方法を考えてみたいと思います。

私が思う鍼灸上達の近道はよい師匠に弟子入りすることです。師匠から経験を引き継ぐわけですね。伝統を継承するとも言えます。そうして毎日の臨床からさまざまなことを学ぶわけですが、このときどのようなことに意識を集中するかで成長に差が出てきます。では前回の技術の項目に合わせてみていきましょう。

・選穴(使うツボの選択)
患者さんが訴える症状と先生が使う経穴(ツボ)との関連性をよく考えます。何年かすると使ったツボを見ただけでどのように考えているかがわかるようになってきます。

・取穴(正しいツボの位置、その探り方)
流派によっては教科書に書かれているツボの位置と大きく異なることがよくあります。これは生きている人間を相手にしているので当然です。人それぞれ顔も違えば性格も違うようにツボの位置も人によって違います。
鍼灸の名人・沢田健先生が「書物は死物なり、死物の古典を以て生ける人体を読むべし」とおっしゃるとおり、生きている人体をよく観察しなくてはいけません。
特に先生から抜鍼を指示された場合は、その取穴されたところをよく触ってツボの感覚を身につけましょう。

・刺鍼技術(どのように刺激するか、はりの深さはどのくらいか)
先生が行う手技をよく見ましょう。旋然術、雀啄術、弾鍼術などどのような手技をどのタイミング、どのツボ、どんな症状で使い分けるかを観察します。またはりをどのくらいの深さに刺入しているかを見ます。

・コミュニケーション
患者さんと先生との会話をよく聞きます。どのような質問に対してどのように答えているかなどよく注意して聞きましょう。

あと自分1人でできることとして、プロ野球選手が毎日バットの素振りをするように鍼灸師もはり、またはお灸の練習をしなくてはいけません。正しく取穴できても技術が未熟では効果を引き出せません。技術の錬磨によってのみ患者さんの苦しみを救うことができます。

ある先生が鍼灸師の成長とは去年治せなかった病気が今年治せるようになることだとおっしゃっていました。私もこの言葉を胸に日々技術の向上を心掛けています。

まずその師匠を見つけるのが大変だ!という声が聞こえてきそうですが、真剣に鍼灸のことを考えていれば知り合いの紹介など意外なところで縁がつながるものです。あきらめずにがんばりましょう!
タグ:鍼灸
posted by 続木はり院 at 21:46| 鍼灸