

まず土用は四季それぞれにあります。五気のうち木・火・金・水の四気は四季に配当され(木=春、火=夏、金=秋、水=冬)、その季節の終わりの18日間が土気に支配される土用になります。
土気の作用の特色はその両義性で、万物を土に還す死滅作用と、万物をはぐくみ育てる育成作用の相反する働きがあります。そこで1年の推移において土気は過ぎ去るべき季節を殺し、来るべき季節を育成することで1年は順当に推移します。
ではなぜ夏の土用が有名になったのか。旧暦のこの時期は未月で火気に属します。未月の土用は火気に相生されていて(火生土)、その土気は強烈になります。土気は万物をそこなう作用が強く、人間には暑気当たりとして影響がでます。

そこで暑気当たりをもたらす土用の火気を抑制するために、未月と相対する丑月の水気で対応しようとします(水克火)。しかし丑月を未月に重ね合わせることはできないから、丑の日をもって呪術の日を「未月土用丑日」としたのです。

この日には牛を水浴させて休ませ、人は丑湯と称して入浴します。さらに牛肉を食べればいいのですが、牛は農耕上の聖獣で明治以前は食肉は禁忌でした。そこで同じウの字がつき、水中の生物で水気を象徴する黒色の鰻を食べることで水克火の呪術を達成しようとしたのです。
平賀源内説や鰻が栄養価が高いからという説では同じ日に行われる水浴とか、牛を川で洗うという習俗の説明にはなりませんが、五行学説をもとにした呪術であるという説には納得がいきます。
今年高山市の小中学校で土用の丑の日の給食に飛騨牛が出ると話題になり、鰻と同じウの字がつくからと言っていましたが、実は本来の意味にもどっていたわけですね。
近代化とともに五行学説は忘れ去られつつありますが、行事としてはしっかりと受け継がれています。しかしその由来となると複雑で難解な五行学説よりも簡単でわかりやすい平賀源内説のようなエピソードの方が現代の人々には受け入れやすいのでしょうね。